「親が薄毛だと、自分も将来はげるのだろうか…」薄毛と遺伝の関係は、多くの方が気にするところです。そして残念ながら、特に男性型脱毛症(AGA)においては、遺伝的要因が大きく関与していることが科学的に明らかになっています。AGAは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、5αリダクターゼという酵素によってDHT(ジヒドロテストステロン)に変換され、このDHTが毛乳頭細胞にあるアンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)と結合することで発症します。このアンドロゲンレセプターの感受性の高さや、5αリダクターゼの活性の強さが、遺伝によって受け継がれると考えられているのです。つまり、親や祖父母にAGAの人がいる場合、その子どもや孫もAGAを発症しやすい体質を受け継いでいる可能性が高いと言えます。具体的には、母方の家系から遺伝するX染色体上にあるアンドロゲンレセプター遺伝子の影響が大きいとされていますが、父方からの遺伝も関与しており、複数の遺伝子が複雑に絡み合っていると考えられています。そのため、「父親が薄毛だから自分も必ずはげる」あるいは「母親の家系に薄毛の人がいないから自分は大丈夫」と単純に言い切れるものではありません。しかし、遺伝的素因を持っている場合、比較的若い年齢から薄毛が始まる傾向があることは否定できません。早い人では20代前半からAGAの症状が現れ始め、年齢とともに進行していくケースが多く見られます。ただし、遺伝的素因を持っていたとしても、必ずしも全ての人が同じように薄毛になるわけではありません。生活習慣、食生活、ストレスの度合い、ヘアケアの方法など、後天的な要因も薄毛の進行に影響を与えるからです。つまり、遺伝はあくまで「薄毛になりやすい体質」を受け継ぐということであり、その後の対策次第では、薄毛の進行を遅らせたり、症状を軽減したりすることは可能です。遺伝的リスクを自覚している場合は、特に早めからの予防的なケアや、薄毛の兆候が見られた際の早期治療が重要となります。
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医師に聞くAGAと妊活の疑問点
本日は、AGA治療と妊活の両立について、不妊治療専門医の田中先生(仮名)にお話を伺います。先生、AGA治療中の男性が妊活を始める際、どのような点に注意すべきでしょうか。「まず、現在服用されているAGA治療薬の種類を確認することが最も重要です。特にフィナステリドやデュタステリドといった5α還元酵素阻害薬は、男性胎児の生殖器形成に影響を与える可能性が指摘されています。そのため、パートナーの妊娠を計画している場合や妊娠が判明した場合には、これらの薬剤の服用について慎重な判断が必要です」。具体的には、どのような対応が考えられますか。「一般的には、妊活開始の数ヶ月前から、あるいはパートナーの妊娠が判明した時点で、これらの薬剤の服用を一時的に中止することが推奨されます。薬剤が体から完全に排出されるまでの期間を考慮し、医師が中断期間を指示します。ただし、薬剤の精液への移行量は極めて微量であり、それによって胎児に影響が出るリスクは非常に低いというデータもあります。しかし、万全を期すという意味で、中断を選択される方が多いのが現状です」。治療を中断することに抵抗を感じる方もいるかと思いますが。「お気持ちはよく理解できます。AGA治療を中断することで薄毛が進行するのではないかとご心配されるのは当然です。しかし、妊活においては、将来生まれてくるお子さんの健康が最優先です。治療中断期間中の薄毛対策については、ミノキシジル外用薬への切り替えなど、別の方法をAGA治療医と相談することも可能です。また、妊活が無事に終わり、授乳期間も終了すれば、多くの場合、内服薬治療を再開できます」。妊活中の男性やそのパートナーへメッセージをお願いします。「AGA治療と妊活の両立は可能です。ただし、自己判断は絶対に避け、必ずAGA治療医と産婦人科医、あるいは不妊治療専門医にご相談ください。それぞれの専門家が連携を取りながら、お二人にとって最も安全で最適なプランを提案してくれます。不安なことや疑問点は遠慮なく質問し、安心して妊活に臨んでいただきたいと思います」。田中先生、ありがとうございました。
皮膚科での薄毛治療保険は使える?
薄毛の悩みで皮膚科を受診しようと考えたとき、多くの方が気になるのが「治療に健康保険は使えるのか?」という点ではないでしょうか。結論から言うと、皮膚科で行われる薄毛治療において、健康保険が適用されるケースと、適用されないケース(自由診療)があります。その違いは、薄毛の原因や治療目的によって大きく左右されます。健康保険が適用されるのは、原則として「病気の治療」とみなされる場合です。例えば、円形脱毛症や、脂漏性皮膚炎、あるいは甲状腺機能異常や鉄欠乏性貧血といった内科的疾患が原因で薄毛が起きている場合、これらの疾患の治療(ステロイド外用薬、抗真菌薬、鉄剤の処方、原因疾患の治療など)は、健康保険の対象となる可能性があります。これらのケースでは、薄毛は病気の症状の一つとして捉えられるため、その治療は医療行為として認められるのです。一方、健康保険が適用されない、つまり自由診療となるのは、主に「容姿を美化するための治療」や「加齢による生理的な変化」とみなされる場合です。代表的なのが、AGA(男性型脱毛症)やFAGA(女性型脱毛症)の治療です。AGAやFAGAは、遺伝的要因やホルモンバランスの影響が主な原因であり、生命に直接関わる病気とは見なされにくいため、その治療薬(フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなど)の処方や、注入治療、自毛植毛といった治療は、原則として自由診療となります。この場合、治療費は全額自己負担となるため、比較的高額になる傾向があります。また、美容目的の育毛メソセラピーや、市販の育毛剤・サプリメントの処方なども、基本的には自由診療です。皮膚科を受診する際には、まず医師に自分の薄毛の原因を正確に診断してもらうことが重要です。そして、提案された治療法が健康保険の対象となるのか、それとも自由診療となるのか、事前にしっかりと確認するようにしましょう。自由診療の場合は、治療内容や費用、期間などについて、納得がいくまで説明を受け、同意した上で治療を開始することが大切です。不明な点があれば、遠慮なく医師やスタッフに質問するようにしましょう。