「髪は血の余り(血余)」という言葉を、東洋医学では古くから使います。これは、髪の毛の健康状態は、全身の血液の状態を反映しているという意味であり、科学的にも非常に理にかなった考え方です。髪の毛は、頭皮の毛穴の奥にある毛乳頭が、毛細血管から栄養素と酸素を受け取り、それを毛母細胞に渡すことで細胞分裂を繰り返し、成長していきます。つまり、髪はまさに血液によって育まれるのです。この生命線とも言える血流を滞らせる最大の要因の一つが「高血圧」です。高血圧とは、血管の壁に常に強い圧力がかかっている状態を指します。この圧力が長期間続くと、血管の内壁は常に緊張を強いられ、次第に傷つき、硬くなっていきます。これが動脈硬化です。しなやかさを失った血管は、血液をスムーズに流すポンプとしての能力が低下し、全身の血行不良を招きます。特に、頭皮に分布しているのは、直径が髪の毛の十分の一ほどしかない、極めて細い毛細血管です。太い血管で始まった動脈硬化や血流の悪化の影響は、こうした末端の細い血管でより顕著に現れます。想像してみてください。栄養と酸素を積んだトラック(赤血球)が、目的地である毛母細胞工場に向かっているとします。しかし、その道である血管が、高血圧によって狭く、硬く、所々で渋滞していたらどうなるでしょうか。工場には十分な物資が届かず、生産ラインは滞り、質の悪い製品(細く弱い髪)しか作れなくなったり、ついには工場の稼働自体が停止(脱毛)してしまったりするのです。これが、高血圧が薄毛を引き起こす基本的なメカニズムです。さらに、高血圧の状態では、体はなんとか血流を保とうとして交感神経を優位にさせ、血管を収縮させることがあります。血管が収縮すれば、血流はさらに悪化するという悪循環に陥ります。このように、高血圧は単に血圧計の数値が高いというだけでなく、全身、特に頭皮のような末端部分の血流を著しく阻害し、髪が育つための土壌そのものを枯渇させてしまう深刻な状態なのです。薄毛を改善したいと考えるなら、育毛剤を塗る、シャンプーを変えるといった外側からのアプローチと同時に、高血圧という内なる問題を解決し、髪の生命線である血流を根本から改善するという視点が不可欠になります。
血流が鍵を握る薄毛と高血圧の共通点