三十代半ば、僕の頭頂部は、自分でも目を背けたくなるほど寂しい状態になっていた。合わせ鏡で見るたびに広がる地肌。雨に濡れた日は最悪で、髪が束になって地肌に張り付き、その薄さを隠しようもなかった。市販の育毛剤は気休めにもならず、黒い粉を振りかけて隠す日々。「もう、俺の髪は手遅れだ」。そう本気で思い込み、半ば諦めていた。そんな僕の転機となったのは、同窓会でのある出来事だった。久しぶりに会った友人の一人が、数年前に会った時よりも明らかに髪が増えているように見えたのだ。昔は僕と同じように薄毛を気にしていたはずなのに。勇気を出して彼に尋ねてみると、彼は少し照れながら「専門のクリニックに通ってるんだよ」と教えてくれた。AGAは治療できる病気だということ、そして彼自身も最初は「手遅れだ」と思っていたことを話してくれた。その言葉は、僕の心に深く突き刺さった。帰りの電車の中で、僕は夢中でスマートフォンを操作し、AGAクリニックについて調べた。そこには、僕と同じように悩み、そして治療によって自信を取り戻した人々の体験談が溢れていた。知らなかった。いや、知ろうとしてこなかっただけかもしれない。諦めることで、傷つくことから逃げていただけなのだ。数日後、僕は震える手でクリニックの予約電話をかけた。カウンセリングの日、医師はマイクロスコープで僕の頭皮を映し出し、こう言った。「佐藤さん、見てください。まだ細いですが、産毛がたくさん残っています。毛根は生きていますよ。手遅れなんかじゃありません」。その言葉を聞いた瞬間、目の前が明るくなるような感覚に包まれ、思わず涙がこぼれそうになった。その日、僕は治療を開始することを決意した。すぐにフサフサになったわけではない。でも、治療を始めて数ヶ月後、抜け毛が明らかに減り、髪にコシが出てきたのを感じた時、僕は心の底から「諦めなくてよかった」と思った。あの日の小さな一歩が、僕の灰色だった日常に、再び彩りを取り戻してくれたのだ。