薄毛の種類の中には、特定の病気やホルモンの影響とは異なり、加齢に伴って誰にでも起こりうる、生理的な変化としての脱毛症があります。それが「老人性脱毛症」です。これは、年齢を重ねることで身体機能が全体的に低下するのと同様に、髪の毛を作り出す能力も自然と衰えていくことで生じる薄毛です。男性のAGAや女性のFAGAのように、特定のパターンで進行するというよりは、髪一本一本が細くなり、全体のボリュームが減少し、密度が低下していくのが特徴です。その原因は一つではなく、加齢に伴う様々な体の変化が複合的に関わっています。まず、髪の毛を作り出す「毛母細胞」そのものの老化が挙げられます。年を重ねると細胞分裂の能力が低下するため、新しい髪が作られるスピードが遅くなったり、作られても細く弱々しい髪になったりします。また、加齢と共に全身の血流が悪くなる傾向があります。特に、心臓から遠い頭皮の毛細血管は血行不良に陥りやすく、髪の成長に必要な栄養や酸素が毛根まで十分に行き渡らなくなります。これも、髪がやせ細る大きな原因です。さらに、長年の紫外線のダメージが頭皮に蓄積されることや、女性の場合は更年期以降の女性ホルモンの減少も、老人性脱毛症の進行に影響を与えます。このタイプの脱毛症は、老化という自然なプロセスの一部であるため、完全に食い止めたり、若い頃のようなフサフサの状態に戻したりすることは困難です。しかし、進行のスピードを緩やかにし、今ある髪をできるだけ健康に保つための「エイジングケア」という前向きなアプローチは可能です。その基本となるのが、生活習慣の改善です。頭皮の血行を促進するために、ウォーキングなどの適度な運動を習慣にし、頭皮マッサージを日々のケアに取り入れることが有効です。食事では、髪の材料となる良質なタンパク質や、抗酸化作用のあるビタミン類、ミネラルをバランス良く摂取し、体の内側から髪をサポートしましょう。また、頭皮の乾燥を防ぐために、保湿成分の入ったエイジングケア用のシャンプーや育毛剤を使用するのも良い方法です。老人性脱毛症は、病気ではなく、人生の年輪のようなもの。悲観的に捉えるのではなく、年齢に合わせたヘアスタイルを楽しんだり、健康的な生活を送るきっかけにしたりと、上手に付き合っていく姿勢が、心身の健康を保つ上でも大切になります。