-
女性の悩みで最も多いFAGAとびまん性脱毛症
薄毛は男性だけの悩みではありません。近年、髪のボリュームダウンに悩む女性は増加傾向にあり、その多くが「FAGA(Female Androgenetic Alopecia)」や「びまん性脱毛症」と呼ばれるタイプに分類されます。これらは、男性のAGAのように生え際や頭頂部といった特定の部分が後退するのではなく、髪の毛一本一本が細くなり、全体の密度が低下することで、分け目が目立ったり、頭皮全体が透けて見えたりするのが大きな特徴です。この「びまん性(広範囲に広がる)」という言葉が、女性の薄毛の性質をよく表しています。FAGAは「女性男性型脱毛症」と訳され、男性のAGAと同様に、ホルモンの影響が関わっていると考えられていますが、そのメカニズムは完全には解明されていません。女性の体内にも男性ホルモンは存在しており、加齢などによって女性ホルモン「エストロゲン」が減少すると、相対的に男性ホルモンの影響が強まり、薄毛に繋がるのではないかと考えられています。一方、「びまん性脱毛症」は、ホルモンバランスの乱れだけでなく、過度なストレス、無理なダイエットによる栄養不足、睡眠不足、誤ったヘアケアといった、様々な要因が複雑に絡み合って発症するとされています。現代女性が抱えるライフスタイルの問題が、そのまま髪に現れているとも言えるでしょう。幸いなことに、女性の薄毛は男性のAGAのように、完全に髪が生えなくなる「禿頭」の状態まで進行することは稀です。そのため、早期に原因を特定し、適切なケアを始めることで、改善の見込みは十分にあります。対策としては、まず生活習慣の見直しが基本となります。髪の材料となるタンパク質や、その働きを助ける亜鉛、鉄分、ビタミン類をバランス良く摂取し、質の良い睡眠を心がけ、ストレスを溜めない工夫をすることが大切です。医療機関での治療としては、日本で唯一、女性の壮年性脱毛症への効果が認められている「ミノキシジル」の外用薬が第一選択肢となります。その他、クリニックによっては女性向けの育毛サプリメントの処方や、頭皮に直接有効成分を注入する治療なども行われています。一人で悩まず、皮膚科や専門クリニックに相談し、複合的な原因の中から自分に合ったアプローチを見つけることが重要です。
-
血流が鍵を握る薄毛と高血圧の共通点
「髪は血の余り(血余)」という言葉を、東洋医学では古くから使います。これは、髪の毛の健康状態は、全身の血液の状態を反映しているという意味であり、科学的にも非常に理にかなった考え方です。髪の毛は、頭皮の毛穴の奥にある毛乳頭が、毛細血管から栄養素と酸素を受け取り、それを毛母細胞に渡すことで細胞分裂を繰り返し、成長していきます。つまり、髪はまさに血液によって育まれるのです。この生命線とも言える血流を滞らせる最大の要因の一つが「高血圧」です。高血圧とは、血管の壁に常に強い圧力がかかっている状態を指します。この圧力が長期間続くと、血管の内壁は常に緊張を強いられ、次第に傷つき、硬くなっていきます。これが動脈硬化です。しなやかさを失った血管は、血液をスムーズに流すポンプとしての能力が低下し、全身の血行不良を招きます。特に、頭皮に分布しているのは、直径が髪の毛の十分の一ほどしかない、極めて細い毛細血管です。太い血管で始まった動脈硬化や血流の悪化の影響は、こうした末端の細い血管でより顕著に現れます。想像してみてください。栄養と酸素を積んだトラック(赤血球)が、目的地である毛母細胞工場に向かっているとします。しかし、その道である血管が、高血圧によって狭く、硬く、所々で渋滞していたらどうなるでしょうか。工場には十分な物資が届かず、生産ラインは滞り、質の悪い製品(細く弱い髪)しか作れなくなったり、ついには工場の稼働自体が停止(脱毛)してしまったりするのです。これが、高血圧が薄毛を引き起こす基本的なメカニズムです。さらに、高血圧の状態では、体はなんとか血流を保とうとして交感神経を優位にさせ、血管を収縮させることがあります。血管が収縮すれば、血流はさらに悪化するという悪循環に陥ります。このように、高血圧は単に血圧計の数値が高いというだけでなく、全身、特に頭皮のような末端部分の血流を著しく阻害し、髪が育つための土壌そのものを枯渇させてしまう深刻な状態なのです。薄毛を改善したいと考えるなら、育毛剤を塗る、シャンプーを変えるといった外側からのアプローチと同時に、高血圧という内なる問題を解決し、髪の生命線である血流を根本から改善するという視点が不可欠になります。